着用型力覚帰還ジョイスティック

 

岩田 洋夫・中川 博憲

(筑波大学構造工学系)

 

Wearable Force Feedback Joystick

 

Hiroo IWATA, Hironori NAKAGAWA

Institute of Engineering Mechanics, Univ. of Tsukuba

Tsukuba, Ibaraki, 305, Japan

E-mail: iwata@kz.tsukuba.ac.jp, hnakagaw@intron.kz.tsukuba.ac.jp

 

1.はじめに

近年計算機やインタフェースデバイスを身に付けることによる新たな情報環境の生成が着目を集めつつある。このような技術はウェアラブル・コンピュータというキーワードで呼ばれるが、バーチャルリアリティはHMDやデータグローブ等の装置を身に纏うという点で元来ウェアラブルであった。しかし、バーチャルリアリティの機器を着用することの最大の問題点は、装着やキャリブレーションにかかる手間である。力覚フィードバックの場合はエグゾスケルトンを装着する方式が歴史的にも長く研究されてきたが、前述の問題から一般には普及していない。その問題に対する方法として道具を媒介にするフォースディスプレイが開発され[1]、徐々に広まりつつある。

ウェアラブルと対になるキーワードはモバイルである。着用できるということは常に持って歩けることを意味する。フォースディスプレイの場合、床や机に置いて使うのと持って歩くのとでは、その機能に本質的な違いがある。後者の場合は仮想物体にかかる重力や床からつながる壁から受ける抗力を表現することができない。一方この方式のメリットは何といっても大空間のどこでも使えることである[2]。表1はこのような観点から現存するフォースディスプレイを分類したものである。本研究で開発したジョイスティックは、モバイルであることと、道具把持型の簡便さという2つの利点をあわせもつことが最大の特徴である。

このジョイスティックは図1,2,3に示すような構成によって腕と指先の間に内力を発生させる。指先は腕に比べてはるかに敏感であるため、指先にかかる力を外力のように錯覚させることが可能である。本論文ではこのジョイスティックの特性について評価実験を行っている。

 

  エグゾスケルトン型 道具把持型
接地 SARCOS Master

EXOS Arm Master
Haptic Master

PHANToM
非接地 Rutgers Master

Cyber Grasp
本研究で開発した着用型ジョイスティック

1 各種フォースディスプレイの構成方法

2.ジョイスティックの機構と位置計測

図1にジョイスティックの機構、図2、図3に実際の使用時の様子を示す。ジョイスティックは3つのモータとポテンショメータを組み合わせた、3自由度を持つものである。2つの軸とリンクにより形成されるパンタグラフと、そのパンタグラフを回転させる軸からなる。軸にはモータとポテンショメータが対で配置され、トルクを出力しリンクの角度を読み取る。

フレームとリンク部分はアルミ、ギヤはポリアセタール製のものを使用し、軽量化を図っている。モータには山洋電気製SuperMini106-3001(定格出力6.4w、重量80g)を使用した。リンクの長さは50mm、操作に使用する長辺は150mmとなっている。

このジョイスティックはアルミ製の支持器とバンドにより腕に固定される。重量は約500g、出力は200g重程度である。なお、このジョイスティックの精度は0.3mm程度である。

1 ジョイスティックの機構

2 ジョイスティック(装着時)

3 装着時の様子

このジョイスティックは手首に対する相対位置しか計測することができないため、実空間におけるジョイスティックの位置と姿勢を計測するセンサが必要となる。そこで、位置を計測するセンサとして、磁気センサ(Polhemus社製3SPACE FASTRACK)を使用した。この磁気センサはレシーバが小型(2cm×3cm×1.5cm)で、ゴニオメータなどによる測定に比べ装着などの手間がかからず、手軽に使用することができる。一方磁気センサのデメリットとして、鉄などが近くにあると誤差が生じたり、サンプリングを細かくすることができない(120Hzまで)ということが挙げられる。

なお、レシーバの取り付け部はリンク先端とし、ユーザーは直接レシーバをつまみ操作するようにしている。これはレシーバを把持部以外に取り付けた場合、把持部の位置がレシーバの角度ノイズにより大きく影響してしまうためである。

 

3.着用型ジョイスティックを用いた力覚帰還環境

3.1 システム構成

このジョイスティックを用いた仮想空間の操作環境を実現するシステム全体の構成を図4に示す。モデルの管理、力覚フィードバックの管理をPC-9821XaPentium75MHz)にて行っている。また、SGIワークステーション(MAX IMPACT, 250MHz)にてOpenGLによる画像を生成している。PCWSPCと磁気センサはそれぞれRS232Cで接続されており、WSとは9,600bps15Hz程度、磁気センサとは38,400bpsにて約120Hzで通信しデータを更新している。

ジョイスティックのリンクの角度はPC12ビットA/Dボードを通して、3つのポテンショメータの値を読み込むことによって得られる。磁気センサの姿勢と各リンクの角度からジョイステック自体の姿勢を計算する。また、磁気センサ自体の位置が把持部となる。これらより、力覚フィードバックを計算し、PCPIOボードから、PWM生成回路とアンプを通してモータに出力される。PCとジョイスティックの通信は約1kHzで更新している。

 

4 システム構成

本システムでは磁気センサをモータの近くで使用しているため、計測にノイズが乗りやすい。そこで、どの程度の距離まで使用できるかを考察した。今回使用した磁気センサはカタログ値において、位置0.8mm、角度0.15度、精度保証範囲約75cmの半球内、最大測定範囲約300cmの半球内というものであった。ジョイスティックにレシーバを取り付けた状態で、それぞれのモータに出力を与え、磁気センサからの出力値のノイズを計測した。計測時のレシーバからモータまでの距離は15cm程度であった。実験によりソースレシーバ間の距離が遠くなるとノイズが大きくなる事が確認された。使用できる範囲は、目的やアプリケーションなどによっても異なるが、一般的にはソースからレシーバまでの距離が60cmから80cm程度までの範囲で使用するのが望ましいと思われる。また、今回は移動平均フィルタを使用して、ノイズの影響が大きく出ないようにした。

 

3.2 映像提示装置

着用型ジョイスティックは任意の場所に持っていけるため、大画像映像と組み合わせる場合に有利である。本研究では背面投射球面ディスプレイ[3]を用いた。このスクリーンは曲率半径1400mmで、幅1500mm、高さ1300mmである。

グラフィックスを生成するため、WSPCにモデル情報を要求し、PCはそれに応じてモデルデータをWSに送り返す。WSには描画用のモデルの一部を持たせてあり、通信されるデータは動的な部分のみとなる。1度の通信で10バイト程度を送信する。グラフィックスはWSで生成し、立体視用に時分割ステレオ画像を作成し、球面スクリーンに投影するためのテクスチャマッピングを応用したひずみ補正をかけ、プロジェクタから背面投影する。ユーザはCrystalEyesを使用し、液晶シャッターにより時分割のステレオ画像を見る。

 

4.仮想ボタンの操作実験

4.1 実験環境

着用型ジョイスティックの操作精度の評価として仮想空間中に配置したボタンの操作実験を行った(図5)。ボタンは縦横3列に9個を配置した。ボタンは正方形で、それぞれのストロークは一辺の長さにし、力覚の提示方法はボタンが押されたときに、押し返す反力とした。なお、この時の出力される力は押している間一定である。

実験は、9つのボタンを順に押してもらいその時間と、押しそこなう動作を数えた。用意したボタンの大きさは、一辺が1cm2cm4cm8cm4種類を用意し、それぞれ隣り合うボタンの間隔もボタン一辺の長さに等しくした。ボタンは高さ160cmを中心に垂直に配置されており、磁気センサのソースからの距離は50から90cm程度であった。被験者は、実験前にそれぞれの大きさのボタン操作を一通り行っている。なお、被験者は6名で、それぞれのタスクを2回ずつ行った。

 

5 実験環境

4.2 実験結果

図6は4種のボタンそれぞれの操作にかかった時間である。棒グラフは平均時間を示し、細線は標準偏差を示す。また、図7はそれぞれの押しそこないの動作の回数を示している。表で示すように、ボタンのサイズが1cmのときには時間、操作ミスともに多くなっていた。一方2cm以上になると時間、ミスの回数ともにそれほど大きな差が見られなかった。ボタンの大きさが1cmの時には、ノイズが操作対象に対して大きく、操作しにくいようであった。全体を通して隣のボタンを押してしまうといったような動作は、ほとんど見られなかった。これらのことより、このシステムで操作できる対象の大きさは2cm程度以上ということができる。

6 操作所用時間

7 操作ミス回数

5.仮想壁のなぞり実験

着用型ジョイスティックは、地面からつながる物体から受ける反力を提示することは原理的にはできないが、腕よりも指先のほうが敏感であることを利用して、壁の存在を錯覚させることが可能である。その特徴を評価するために、正弦波状の壁をなぞるという実験を行った。この時被験者は、指先に受ける力に応じて、腕全体を動かすことになる。壁は床面に対して垂直で、操作者の前面約40cmに設定した。この時の磁気センサ間の距離は3060cm程度であった。この実験は純粋に力覚フィードバックの効果を見るために、視覚情報の提示は行っていない。図8に被験者の指先の動きの軌跡を示す。この結果は指先を前後に動かしながら、壁の境界面を探し、なぞっていることを示す。正弦波の振幅を周期の半分として、大きさを変えていったところ、振幅10cm程度の正弦波をなぞることが可能であった。ただし、この操作には若干の慣れが必要である。このジョイスティックでは指先に対する力しか出せないため、指先が大きく壁の中にめり込んでいるような状況においては、操作者が腕の引き戻しの動作を行えないと、自分の位置が把握できず、うまく操作できないことがある。

8 壁なぞり実験の軌跡

 

まとめ

本研究では着用型力覚帰還型ジョイステックの構成法を示しその性能について評価した。その結果、十分な仮想物体の提示が行えることを確認した。現段階では、磁気センサのレンジが必ずしも広くないため操作範囲が小さいが、より高性能なものに置き換えることによって拡大することが可能である。

今後の展望としては、精度の問題としてボトルネックになっている磁気センサのノイズについての対策を行うことである。センサの精度を落とす原因はモータから発せられる磁気であるため、磁気をあまり出さないようなものが求められる。また、モータの配置場所を磁気センサのレシーバから離せるような配置にする方法も有効であろう。

また、仮想壁のなぞり実験で問題になった指先が大きくめり込むことに対しては、適切な映像と組み合わせ、大まかな位置をわかりやすくすることによって、対処することが可能であろう。

 

参考文献

  1. Hiroo IWATA, Pen-Based Haptic Virtual Environment, Proc. of VRAIS’93 (1993)

  2. Grigore BURDEA, Force and Touch Feedback for
    Virtual Reality, JOHN WILEY & SONS (1996)

  3. 岩田、橋本、背面投射球面ディスプレイ、ヒューマンインターフェースN&RVol.12, No.2, pp. 119-124 (1997)